中小企業の事業承継問題とMBO ~会社の文化と経営方針を守る新しい承継のカタチ~

目次
はじめに
日本の中小企業は、地域経済や雇用を支える重要な存在です。しかし、近年深刻化しているのが「事業承継問題」です。従来は親族が事業を引き継ぐのが一般的でしたが、その割合は年々減少し、今や4割以下にまで低下していると言われています。後継者が見つからず黒字経営にもかかわらず廃業を選ぶ企業も少なくありません。
こうした状況の中、近年注目を集めているのが「MBO(マネジメント・バイアウト)」という事業承継の手法です。本記事では、中小企業におけるMBOの増加背景やメリット・デメリット、会社の文化や経営方針を守りながらスムーズな承継を実現するポイントについて、詳しく解説します。
中小企業の事業承継問題とは?
日本の中小企業の多くは、長年にわたり家族経営が主流でした。しかし少子高齢化や価値観の多様化により、親族内での後継者確保が難しくなっています。
事業承継における主な課題は以下の通りです。
- 後継者不足
- 承継資金の確保
- 税負担の重さ
- 個人保証や担保の引継ぎ
これらの課題を放置すると経営者の高齢化とともに廃業リスクが高まることとなります。
なぜ中小企業でMBOが増えているのか?
従来の承継方法の限界
これまでの事業承継は「親族内承継」か「第三者への会社売却(M&A)」が主流でした。
しかし、親族内承継は後継者不在という壁に直面し、第三者M&Aは企業文化や経営方針が大きく変わるリスクがありました。
MBOという新しい選択肢
MBO(マネジメント・バイアウト)は、現経営陣や役員クラスの従業員が会社を買い取り、経営権を引き継ぐ手法です。
特に親族に後継者がいない場合や、会社の理念や経営方針を守りたいときに選ばれるケースが増えています。
つまり、後継者問題の解決と企業理念の維持という2つのポイントを同時に達成するために、会社幹部へ引き継がせる方法としてMBOが増加しています。
MBOのメリット~会社の文化や経営方針を守る視点から~
MBOが中小企業の事業承継手法として注目される理由は、単なる経営権の移転だけでなく以下のようなメリットがあるためです。
・会社の文化や経営方針の維持
MBOでは会社をよく知る現経営陣や幹部が経営を引き継ぐため、これまで築いてきた企業文化や経営方針を大きく変えることなく承継できます。
従業員や取引先にとっても安心感があり、社内のモチベーションも維持しやすくなります。
・迅速な意思決定と経営の安定
経営権が経営陣に集中することで、意思決定のスピードが上がり、新規事業の立ち上げや経営戦略の転換がしやすくなります。
また、外部株主の意向に左右されず、長期的な視点で経営を進めることができます。
・ガバナンス強化とイノベーション
MBOによって、従業員の意見が経営に反映されやすくなり、従業員満足度やイノベーションの促進にもつながります。
また、経営の透明性や公平性が高まることで、社内外からの信頼も得やすくなります。
・周囲からの理解が得やすい
親族や第三者への売却と比べて現経営陣による承継は従業員や取引先からの理解も得やすく、スムーズな事業承継が可能です。
MBOのデメリットと注意点
一方で、MBOには以下のようなデメリットや注意点もあります。
- 後継者(経営陣)が多額の資金調達を必要とする場合がある
- 経営者としての覚悟と責任が求められる
- 親族からの反対や社内外の調整が必要になることもある
- 株式の移転や保証人交代など、法務・税務面での専門的対応が必要
MBOを成功させるためには、事前の準備や専門家のサポートが不可欠です。
MBOによる事業承継の流れ
MBOでの事業承継は、主に以下のステップで進みます。
適任者を時間をかけて選び、経営ノウハウやマネジメント力を養成します。
現経営者が保有する株式を後継者に譲渡。資金調達が必要な場合は、持株会社の設立や金融機関からの借入も検討します。
従業員や取引先に後継者を紹介し、ビジョンや方針を共有します。
遺言や生前贈与、保証人交代など、専門家と連携しながら進めます。
株式や経営権が正式に移転し、新体制がスタートします。
事業承継問題とMBOの今後
中小企業の事業承継問題は、今後ますます深刻化すると予想されています。
MBOは、会社の文化や経営方針を守りながら、スムーズな事業承継を実現できる有力な選択肢です。

「親族に頼らず、会社をよく知る経営陣に託す」という新しい承継のカタチが、今後の中小企業経営の安定と発展につながるでしょう。
まとめ
- 中小企業の事業承継問題は、後継者不足や資金・税金など多くの課題を抱えている。
- MBO(マネジメント・バイアウト)は、現経営陣が経営権を引き継ぐことで、会社の文化や経営方針を守りながらスムーズな承継が可能な手法。
- MBOには資金調達や責任の重さなど課題もあるが、従業員や取引先の理解を得やすく、経営の安定やイノベーションにもつながる。
- 事業承継を検討する際は、MBOも有力な選択肢として早めに準備し、専門家のサポートを受けながら進めることが大切。