MBOで株価はどう動く?買収プレミアムの傾向と注目事例を徹底解説

目次
はじめに
近年、日本の株式市場ではMBO(経営陣による自社買収)が急増しています。MBOが発表されると、株価が大きく動くことが多く、投資家にとっては大きなチャンスにもリスクにもなります。特に注目されるのが「買収プレミアム」です。MBO発表時、買い取り価格は通常、直前の株価よりも高く設定されるため、株価が急騰するケースが一般的です。しかし、そのプレミアムの水準や株価の動きにはパターンや注意点もあります。
この記事では、MBO発表時に株価がどう動くのか、プレミアムの傾向や実際の事例を交えながら、投資家目線でわかりやすく解説します。
MBO発表時、株価はどう動く?
MBOが発表されると、”買い取り価格(TOB価格)”が示されます。この価格は、発表直前の株価よりも高く設定されることが多く、「買収プレミアム」と呼ばれます。
MBO発表直後の株価は、通常このTOB価格に急接近する形で大きく上昇します。
株価の動きの流れ
- 発表前:株価は通常通り推移。MBOの噂や思惑で徐々に上昇することも。
- MBO発表直後:TOB価格(買い取り価格)に向けて株価が急騰。
- TOB期間中:株価はTOB価格付近で安定。成立見込みが高ければTOB価格とほぼ同じ水準で推移。
- 成立後:上場廃止となり、株主はTOB価格で株式を買い取られる。
プレミアムとは?
- プレミアム=「TOB価格」−「発表直前の株価」
- プレミアム率=(TOB価格 ÷ 発表直前の株価 − 1)× 100%
「発表直前の株価」とは、開示日の前営業日の株価、またはそこから起算して1か月の市場平均株価をベースに計算されることが一般的です。

もし会社の発表前の段階から株式を保有していたとすればプレミアムの分だけ値上がり益(キャピタルゲイン)が見込めるということになりますね
プレミアムの傾向と分布
近年のMBO事例を集計したデータによると、プレミアム(上乗せ率)は多くが20%〜50%の範囲に集中しています。
プレミアム分布(2021〜2023年のMBO等)
- 30〜40%:最も多い
- 40〜50%:次に多い
- 30%以下:やや少なめ。投資家から「安すぎる」と批判されることも
- 50%以上:少なめ。大型・話題案件や特別な事情、競争が激しい場合に発生
(出典:JPX「MBO等のプレミアムの分布(2021〜2023年)」)
代表的なMBO事例と株価の動き
大正製薬ホールディングス(2023年)
- 発表日:2023年11月24日
- TOB価格:8,620円(発表直前の株価比で+50%のプレミアム)
- 株価の動き:発表直後にTOB価格付近まで急騰。その後はTOB成立までほぼ横ばいで推移。
- 背景:オーナー家によるMBO。価格水準については一部株主やアクティビストから「低すぎる」との批判も。
メタップス(2023年)
- 発表日:2023年2月13日
- TOB価格:889円(発表直前の株価比で+41%のプレミアム)
- 株価の動き:発表直後にTOB価格まで急騰。その後はほぼ横ばいで推移し、TOB成立・上場廃止。
イグニス(2021年)
- 発表日:2021年3月5日
- TOB価格:3,000円(発表直前の株価比で+62%のプレミアム)
- 株価の動き:発表直後にTOB価格まで上昇。その後TOB成立、上場廃止。
プレミアムが高い・低い場合の投資家への影響
プレミアムが高い場合
- 保有株をTOB価格で売却すれば大きな利益が得られる
- 株価がTOB価格に張り付くため、リスクは低い
- ただし、TOBが不成立となるリスクや、TOB期間中の予期せぬ動きには注意
プレミアムが低い場合
- 「安すぎる」として一部株主やアクティビストが反発
- TOB価格の引き上げ交渉や、TOB不成立となる場合も
- 長期で高値掴みしていた株主は損失確定となることも
プレミアム設定の背景と注意点
なぜプレミアムが設定されるのか?
- 株主に対して「上場廃止(非公開化)」の不利益を補うため
- 経営陣と株主の利害対立(インサイダー問題)を緩和するため
- 株主の賛同を得てスムーズにTOBを成立させるため

「経営陣と株主の利害対立」(インサイダー問題)とは、経営陣は会社の内部情報(将来の成長戦略や未公表の経営計画など)をよく知っているため、株主よりも情報面で有利な立場にあるということです。
プレミアムをつけることで、株主に「上場廃止による流動性喪失」や「経営陣の情報優位性による不利益」を補償するという意味合いがあります。
注意点
- プレミアムが低すぎると、株主の反発やTOB不成立リスクが高まる
- 逆に高すぎると、買い手側(経営陣やファンド)の負担が大きくなる
- プレミアム水準は、市場環境や直近の株価推移、企業の業績や将来性、株主構成などによって大きく左右される
MBO発表時の投資家の戦略と注意点
投資家の基本戦略
- MBO発表直後に株価がTOB価格付近まで上昇したら、リスクを避けて売却するのが基本
- TOB成立リスク(反対株主の存在や資金調達の問題など)を見極める
- プレミアムが低い場合は、TOB価格引き上げの可能性や不成立リスクも考慮
長期投資家への影響
- 長期保有で高値掴みしていた場合、MBO価格が取得単価を下回ると損失となる
- 配当や優待目的の投資家は、MBOで上場廃止となることで投資方針の見直しが必要
アクティビストや大口株主の動き
- プレミアムが低い場合、アクティビスト(物言う株主)がTOB価格引き上げを要求する動きが活発化
- 近年は、株主総会でTOB価格引き上げが実現した事例も増加
まとめと今後の展望
MBO発表時の株価は、TOB価格(買い取り価格)に向けて急騰し、その後は安定するパターンが多いです。
プレミアムは20〜50%が中心ですが、企業や市場環境によって幅があります。
高いプレミアムは投資家にとって魅力的ですが、低すぎる場合は反発やTOB不成立リスクもあるため注意が必要です。
今後も東証改革やガバナンス強化の流れを背景にMBOは増加傾向が続くとみられます。投資家としては、MBO発表時の株価動向やプレミアム水準、TOB成立リスクなどを冷静に見極めることが重要です。