3.MBO候補企業の特徴

MBO候補企業の特徴としての『財務体質の健全さ』はなぜ重要か?

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はじめに

近年、日本の株式市場ではMBO(マネジメント・バイアウト:経営陣による自社買収)が注目を集めています。大正製薬ホールディングスやベネッセホールディングスなど、上場企業による大型MBOが相次いで発表され、投資家や経営者の間でも「次はどの企業がMBOを実施するのか?」という予想が盛り上がっています。

MBO候補企業を探す際によく挙げられる特徴の一つが「財務体質が健全であること」です。

しかし、「財務体質の良さ」は、一般的な買収(たとえば他社によるM&A)では資金力がないと取得できませんので“買い手”に求められるイメージが強いのではないでしょうか?
なぜ、MBOにおいては「対象となる企業=取得される側」にも財務の健全さが重視されるといわれるのでしょうか?

この記事では、その理由を分かりやすく解説します。

MBOとは?簡単なおさらい

まず、MBOについて簡単におさらいしましょう。MBOとは、企業の経営陣が自ら自社株を買い取り、経営権を取得する手法です。多くの場合、上場企業がMBOによって株式を非公開化し、経営の自由度やスピードを高めることを目的としています。

MBOを実施するには、経営陣が既存株主から株式を買い集めるための多額の資金が必要です。この資金調達が、MBOの成否を大きく左右します。

なぜMBO候補企業に「財務体質の健全さ」が求められるのか?

MBO資金の調達には会社の信用力が不可欠

MBOを実現するためには、経営陣が自社株の買い付け資金を集める必要があります。しかし、経営陣個人の資産だけで全株を買い取るのは現実的ではありません。そこで、金融機関(銀行など)や投資ファンドから多額の資金を借り入れることが一般的です。

このとき、融資をする金融機関は「MBO後の会社の財務状態」を厳しくチェックします。
なぜなら、MBO後の会社が安定して利益を生み出し、借入金をきちんと返済できるかどうかが、融資の可否を決める最大のポイントだからです。

つまり、財務体質が健全な企業ほど、銀行やファンドからの資金調達がしやすく、MBOの実現可能性が高まるというわけです。

MBO後の返済負担に耐えられるか

MBO実行後、会社は多額の負債を抱えることになります。たとえば、数百億円規模のMBOでは、その大半を借入金でまかなうケースも珍しくありません。
このとき、もともと財務が弱い企業だと、返済負担に耐えられず、経営が悪化するリスクが高まります。

一方、自己資本比率が高い、キャッシュフローが安定している、利益率が高いなど、財務体質が健全な企業であれば、借入金の返済にも十分に耐えられると判断されます。
そのため、MBOの候補企業としては「財務体質の健全さ」が非常に重要な条件となるのです。

何か違和感を感じる方へ

借入の返済をするのは取得した経営陣や彼らが持つ会社であって、MBO対象となった”取得される側の会社”ではないのではないでしょうか?

借入金の返済能力が「MBOされる側の企業」になぜ求められるのか、何かしっくりこないです…

MBO(マネジメント・バイアウト)で「借入返済をするのは経営陣(またはMBOのために設立される特別目的会社:SPC)であって、MBOされる会社自身ではないのでは?」という疑問はとても本質的です。しかし、実際のMBOスキームでは、最終的にその返済原資を生み出すのはMBO対象となる会社のキャッシュフローであるため、対象会社の返済能力が非常に重視されます。

MBO後の資金返済の仕組み

MBOでは、経営陣やSPCが金融機関やファンドから多額の資金を借り入れ、既存株主から株式を買い取ります。このとき、借入の直接的な返済義務はSPCや経営陣にありますが、実際にはMBO後にSPCと対象会社を合併したり、対象会社から配当や役員報酬などの形で資金を吸い上げて返済に充てるのが一般的です。

そのため、金融機関は「MBO後に対象会社がどれだけ安定的にキャッシュフローを生み出せるか」「負債返済に十分な利益を継続的に上げられるか」を重視して審査します。MBOの借入金は、最終的に対象会社の事業から生まれる現金で返済される構造になっているため、対象会社の財務体質や収益力が問われるのです。

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財務基盤が不安定な会社を対象とすると、ファンドも投資リスクが高いと判断してMBOに協力してくれない可能性が高まります。

財務体質が健全な企業の具体的な特徴

では、どのような企業が「財務体質が健全」と評価されるのでしょうか?
具体的には、以下のような特徴が挙げられます。

  • 自己資本比率が高い(40%以上が目安)
  • 有利子負債が少ない
  • 営業キャッシュフローが安定してプラス
  • 継続的な黒字経営
  • 現預金が豊富

こうした企業は、取得した側がMBO時に多額の借入をしても会社の事業を原資とした返済能力が高いと見られ、金融機関やファンドからの信頼も厚くなります。

実際のMBO事例でも「財務健全性」が共通点

過去のMBO事例を見ても、財務体質が健全な企業が多いことが分かります。

【大正製薬ホールディングス】

自己資本比率が高く、現預金も豊富。MBO後の返済にも十分耐えられる体力がありました。

【ベネッセホールディングス】

教育事業を中心に安定したキャッシュフローを確保。MBO資金の調達もスムーズでした。

まとめ

MBO候補企業の特徴として「財務体質が健全であること」が重視される理由は、
MBOの資金調達やMBO後の経営安定性に直結するからです。
経営陣による自社買収は、会社の信用力がなければ実現が難しいため、財務が健全な企業ほどMBOの対象になりやすいのです。

今後もMBOが増加する中で、投資家や経営者は「財務体質の健全さ」に注目し、MBO候補企業を見極めることが重要になるでしょう。

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Panda(パンダ)
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公認会計士
監査法人出身の公認会計士。現在は一般事業会社の経理として実務に従事しながら、株式投資やインデックス投資なども実践中。 経理と会計士の視点から、MBO候補企業をゆるく、でも深く掘り下げるブログを書いています。
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